りょこう

退屈だった。地面は暑いし駄菓子屋と小さな空き地と海しかないこの街は僕は好きじゃなかった。おばあちゃんの家はこの小さな島の海沿いにある。僕の両親が同時に出張やらなんやらで1週間おばあちゃんの家に預けられることになった。最悪だ。ここには何もない。大きな百貨店もゲームセンターもない。僕はもっぱら都会っこなのである。家にいてもしょうがないので自由研究のアリの成長を観察するために空き地にやってきた。アリを探してみたが四つ葉のクローバーを見つけたくなったので僕はアリを探すのをやめた。しばらくすると空き地にひとり、僕と同じくらいの女の子がやってきた。こんな街にも子どもがいるのかと偉そうに思ってしまった。女の子は僕になにをしてるのと訪ねてきたので一緒に四つ葉のクローバーを探すことにした。そういってから間もなく、ほら見つけたよと四つ葉のクローバーを僕に差し出した。しかも3本。訳がわからない。小一時間探していた僕は一体。女の子はすました顔で僕を見て、君はとっても綺麗ね。私が見つけたそれ全部あげるわと言ってフラフラ空き地を出て行った。僕は影が一つもない空き地にいるのが恥ずかしくなってしまってそそくさとおばあちゃんの家へ戻った。それからというもの女の子には毎日あの空き地で会うようになった。約束もしていないのに僕は毎日決まった時間に空き地へ来た。女の子は僕の隣で小さく座ってこの街の話をしてくれた。あまり上を見ずに伏し目がちの女の子は綺麗で長い睫毛を僕にだけこっそり見せてくれているようだった。まばたきをするたびにキラキラ光る瞳を盗み見しては、たまに目が合ってしまって僕はそっぽを向いて話を聞いていた。女の子はこの街がだいすきだと言っていた。お父さんが釣ってくる魚はとても美味しいし、海が好きだし、静かなところがいいんだって言う。僕にはよくわからないけど、たしかに星は綺麗だった。僕がこの街を離れる日、またいつものように空き地に行くと女の子は来ていなかった。まるでそれを分かっていたかのようだった。猫のような女の子だった。さようならをしに来たんだよ、僕は女の子の名前さえ聞けやしないし、少し帰りたく無くなった気持ちも、この街が好きになった理由もなんとなく誰にも言わず僕は都会っこに戻った。あれから何年も経ってしまったけれど、未だに夢の中で思い出す。あの女の子は僕の長い夢なのだ。僕は決心した。僕がおじいちゃんになった頃、あの街でレコード屋を始めよう。そうして僕は飼い猫のメイを撫でて会社へ向かった。